どうしようもないネタメモブログ。
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さとうさんに頂いた名家亮沢がとても素敵だったので。
私は死にネタは書けないし書かない人間ですが、彼らなりの日々が少しでも幸せであったなら(それがたとえ、傍目から見て異常だったのだとしても)、死で閉じる幕でも受け入れられると思いました。
さとうさん、本当にありがとうございました。
本当はきちんと感想を言わせて頂くのが当たり前ですが、私はいかんせんうまく感想を言えず、こういう形でしか表現できないからこそ物書きをやっているんだと思っております。
だからせめて。
平安の昔に、則って。
私は死にネタは書けないし書かない人間ですが、彼らなりの日々が少しでも幸せであったなら(それがたとえ、傍目から見て異常だったのだとしても)、死で閉じる幕でも受け入れられると思いました。
さとうさん、本当にありがとうございました。
本当はきちんと感想を言わせて頂くのが当たり前ですが、私はいかんせんうまく感想を言えず、こういう形でしか表現できないからこそ物書きをやっているんだと思っております。
だからせめて。
平安の昔に、則って。
部屋は暗い。
目の前で三つ指を立てて畳にひれ伏したものに、亮介はようやっと一瞥をくれた。
窓から入る月光は、手吹きの硝子に歪められて赤い着物に落ちる。
少女は――かつては少女でしかなかったその女は、腹の中に気を遣っていつものように地べたに全身でもって這い蹲ることができないようであった。軽く曲げられた上半身と伏せられた顔だけが、彼への最高の敬意を表している。
「栄純」
亮介が気だるげに名を呼ぶと、彼女は、はい、といつも通りの穏やかな声で返した。
「怖くはないの」
別段怯えも心配も感じさせない普段通りの亮介の言葉に、栄純はもう一度顔を上げぬまま、はい、と応えた。
もうすぐ十月十日がやってくる。栄純の腹に走る痛みは着実に死へと近づいている証だった。
昔彼に泣きついたときのことを思い出すと何だか不思議だった。いまは――もう、栄純にとっての人生がなんだったのか、その答えが出てしまった。
もう、彼に泣きついて死を望むようなことはない。
腹の子に哀しい嫉妬とその対極に位置する恋情を覚えることもない。
ただ、役目を果たせる。それで彼の役に立てるならば。
結局はいちばん簡単な答えを選べばよかったのだ、と栄純は思い、それだけで可笑しく、落ち着くことができた。
亮介はかすかに見え隠れする栄純の穏やかな表情の片鱗に、ねえ、と声をかける。
「逃げようか」
栄純が顔を上げた。亮介はいつもの笑みを浮かべてはいない。
ただぼんやりと、栄純を見つめている。
「って言ったらお前、どうするね」
栄純は驚いた様子も見せずに、頷いた。やはり口は笑みの形に。
「亮介様がそうおっしゃるのでしたら、おれは意のままに」
「…言うと、思ったよ」
嘆息してまた視線を外す。あきらめに近い姿勢のようで、それは決してあきらめなどではなかった。
彼は初めから、この結末しか知らなかったのだ。それを栄純は受け入れた。それだけのことだ。
仮腹とはいえ小湊を継ぐ子供を宿した身体。いつまでも蔵に仕舞い込んでいるわけにもいかず、春市の助力もあって栄純は屋敷の狭い一室を宛がわれていた。
其処に亮介が訪れるのを咎める者はいない。
どうせ、子供を産めば捨てられる命。それがどうやら子供の誕生と共に自然に失せるのだと知って、周りは胸を撫で下ろした。
その気持ちは亮介にはよくわかり、忌々しい奴等だとは思ったものの道理には合っていると思った。
「最期――」
亮介の形の良い唇が動いた。
「最期、お前は泣くの?」
子どものような問に、栄純は瞬きをするところころ笑った。それはおおよそ割腹という武士のような死に方を選ばされた女のものではなかった。
栄純は亮介の横顔を見詰めたまま、はっきりと返答した。
「いいえ。笑います」
亮介の瞳が栄純を捕らえた。滅多に見ることのできない不思議な鈍さと輝きを持つ水晶のような彼の双鉾が、栄純の赤を映して染まった。
「笑うのか」
「はい。最期の最期まで、小湊の仮腹に恥じぬように」
「そんなもの――無いよ」
亮介の吐き捨てたような物言いにも栄純は動じない。
死を前にすると女の方が強いと聞いたことがあるな、と亮介は思って眉根を寄せた。
栄純はいつも通り穏やかに美しく、初めて会った時とは少し違ったきれいな笑みを向けた。どこかで見たことのあるそれは弟のものに似ていたかもしれない。(それは即ち彼にも似ていたということだが彼は気付かなかった、気付けなかった)
どうしても仮腹のままでしかなかった彼女はけれど今、非常に誇りに満ちた表情をしていた。
「笑ってみせます。だから、見ていてください」
「…どうして、そこまで」
「だって、」
言われた言葉に返す言葉はなく、次いで恭しく下げられた頭に亮介はただ何も言えなかった。
力の抜けた身体をふらりと立ち上がらせて、最後だ、という言葉と共に栄純の頬に手をやると、初めての時とおんなしように、口付けでなくて唇を噛んだ。
(おれが、あなたからもらったのは、えがおなんです。)
水くくるとは
いつの間にか亮介さんは栄純に染められ、
いつの間にか栄純は亮介さんに染められ。
二人の最後の会話はこうであったら、という話。
お目汚し失礼致しました。
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