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ちょっと待ってて
(ちろろさんリク→甘甘イズミハ・二人で秘密で海にお出かけ&キス)
家出ってどんな気分なんだろう。幼い頃によく思ったことはいつまでも実行されず――特に悩んだ少年時代を送ったわけでなし――、今に至る。
けれど、もしかしたら今の気分に近いのではないかと思う。
駄目だとわかっていても、未来にものすごく怒られてしまうとしても、光の先を見たいという気持ちにただ押し流されてゆくのはとても楽しい。あとゾクゾクする感じ、も少し。
駅の改札を出て、振り返る。そんな心配する方がおかしいのかもしれないが、いかんせん三橋は危なっかしいところがあるから仕方ない。
三橋は案の定ばたばたと切符を探して何とか改札を抜け出るところだった。ああ、切符の管理も俺がするべきだったかな。でもそこまで甘やかすのは、どうなんだろな?
「いず、み、く…」
「ほら、行くぞ」
手を引いてやると、三橋は転びそうになりながらも何とか俺についてくる。
駅の中からも外に広がる光景が見えて、潮の匂いがする。ああ遠くまで来たんだな、となんとはなしに感じた。
ぐいぐい手を引っ張って、駅の出口へ向かう。
「あ、あわ、」
「もうすぐだから」
「ぶ、部活、は、」
「用事あるって、言ってある」
「あぅ、でも、おれ、」
振り返らずに短く返す俺に、三橋はまだぐずぐずと頑張る。
どうせならすぐに流されてしまえばいいのに。
「いいんだ」
やっぱり短く。(でもどこか優しく。)
握った手にこめる力は、心持ち強く。
「俺、お前といっしょにいたいだけなんだから」
赤くなっているだろう顔なんて見せない。
三橋はそれを聞いて一転押し黙ったけれど、手にこめた力はそのままにした。たまに行動的になったりするからこいつは性質が悪い。
駅を出ると爽やかな風が吹いた。すぐそこは砂浜、その延長上に広い海で、視界がぐっと開けた。
季節柄当たり前だが、海水浴客の姿は見えない。寂れたと言ってしまうと元も子もないような気もするが、そんな状態だ。
コンクリートの地面を過ぎ、柔らかい砂に足をつける。靴越しにも足がめり込むのがよくわかった。
ずっとまっすぐ、まっすぐ。海へ向かって、これは入水するつもりに見えるかもしれないとバカなことを考えながら突き進み、波打ち際まで来て、止まる。
振り向いて三橋を見た。これから何が始まるのかわからないためか、部活をずる休みしたことへの罪悪からか、その表情には脅えが混じっている。
ごめん。たぶん、そんな顔させなくてもいい方法が、あったのかもしれないけれど。
みんなのストッパーだとか言われる俺だって、余裕がないときもある。
「三橋」
名前を呼ぶと三橋の視線が俺から揺らいだ。ほんの少しの動きだというのに俺は苛立ってしまって、反射的に手を引き寄せる。三橋の大きな瞳が驚愕に見開かれた。
「うわ」
「三橋」
「…う、ん」
すっぽり俺の腕の中に入れて――抱きしめて、俺は耳元で言う。
「あのな」
「うん」
「誕生日、おめでと」
三橋はさっきよりも目を大きくした。
これは別に、自分の誕生日を忘れていたなんてそんなことではない。事実昨日は休みで、毎年恒例、三橋宅での誕生日会がきちんと開かれた。
だから三橋は不思議に思ったんだろう。それは当り前だし、想定もしていた。
息を大きく吸って、吐く。これからやること・言うことはきっとかなりバカげていて、でも自分では相当本気のことで、と自分自身を納得させながら。
「誕生日だから、もうお前十八歳なんだよ」
「そうだ、ね…?」
「だからさ、ちょっと待ってて」
顔を上へ向かせる。キラキラ、太陽の光が反射して光る三橋の瞳が俺を見る。
目をつぶらないで、そっと顔を近づけて、唇に唇を押しつけた。
三橋は驚いていたけれどすぐに目を閉じる。それは俺が教えたことで、そんなことを思い出すと気恥かくて、俺も目を閉じた。
ざざ、と波が砂を擦る音が響く。他には何も雑音がなくて、世界に二人だけみたいだ。
しばらくそのままで三橋のやわらかい唇を味わって、離れる。
「待つ、の…?」
三橋が不思議そうに、けれど頬を赤くして幸せそうに聞いてくるから、俺も自然と笑みがこぼれた。
「ああ――ちょっとだけ、待ってて」
ぎゅう、と抱きしめて、言わなくてはいけないことを、早く。
俺たちの時間はどうやったって限られている。こんな現実からの短時間逃避行だって、いずれきっとできなくなる。
でも。だから。
今を、すごく大切にしたいから。
「結婚しよう。廉」
「!」
「俺も十八なったら、結婚できる」
そんなこと認められるはずないけど、その約束が少しでも長く、俺らをつないでくれるなら。
いくらだって嘘の約束、ついてやるよ。
「孝介くん…」
「好きだ。愛してる。ずっと、世界で一番」
(そんな言葉何にもならないけどお前が、廉が幸せになってくれるならそれで俺は、)
廉は俺を見て――きっとかなり歪んだかっこわりー俺の顔を見て、悲しそうに微笑んだ。
「うん」
小さな声が肯定して俺を抱きしめる。
普段鈍感なこいつは、俺が駄目なとき、いつだってこうやって、強い。
「おれも」
ざざ、ん。
波が大きく唸りを上げて。
「ずっといっしょにいたい」
「…ん」
「家事…できない、けどっ」
目を瞬かせると、廉は慌てて俺を離した。
「でもっ、こーすけくんのお嫁さん、なら、家事もできるっ、よ!」
両拳を握り締めて一生懸命に言う姿は、誰が何と言おうとこの世で一番愛しい。
俺はかなり間抜けな顔で驚いていたんだろうけど、思わず声を上げて笑ってしまった。
「ふえっ?」
「ははっ……うん…楽しみにしてる」
廉の髪に触れて、くしゃくしゃにかき混ぜる。わ、とか、あわ、とか慌てるこいつは気づいてないんだろう。いつもやっているこの行為が、単なる恥ずかしさの誤魔化しだってことに。
「で、いいのか?」
「うひ?」
「結婚」
「!…うん」
ときどきその場のノリで頷く癖があるから、ちゃんと確かめないといけない。顎を掴んで上向かせると、廉は顔を真っ赤にして目を泳がせた。散々泳いで戻ってきた瞳は潤んでいて、焦っていて余裕がない、そんな俺の顔が映っていた。
「泉廉になるんだけど」
「う、うんっ」
「いーのか?」
「だって、俺、」
そろそろ息継ぎさせなくて大丈夫か心配になってたんだけどさ。
「こーすけくんの、ものなのに、」
つい、また唇を塞いでしまった、
ちょっと待ってて。
俺が、もっとちゃんと、
お前を連れ出せるまで。
終わり
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釈明のお時間↓
・リクをまるっきり無視している。
・ふたりの性格(特に泉様)がおかしい。
・描写がいい加減にもほどがある。
・やはり読み返せない。
・というか書きなおしていいですかちろろさんorz