どうしようもないネタメモブログ。
ツッコミ可。空月のツッコミ返し有。
原稿とかで忙しい時はこっちで更新してます。
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件のお正月子猿。(ブログで予告したやつ)
「やっぱりおこたはいいのお」
「……オコタ?」
「こたつのことだよ。言わねー?」
「言わないっすねえ…」
老成したような声に返す子津の声は上の空だった。視線は昆布巻きに注がれている。
門松を用意し家の至るところに注連縄飾りを掛けて周り神棚を掃除し正月料理の準備をする。高校生男子とはとても思えない所業に猿野は目を丸くしたが、また半眼に戻った。眠かったのだ。
忙しい中に押し掛けても子津は文句ひとつ言わなかった。慣れた手つきで居間へ通すとすばらしいタイミングで茶とみかんを出し、今に隣接する台所へ戻って行った。この間十秒無い。
こたつでぬくぬく温まりながら、美味しい料理が出来上がっていくのを横目で見つつ、うとうとする。これぞ日本の伝統、寝正月。口で言ったらツッコまれるかもしれなかったが、万が一ツッコまれなかったらさびしいのでやめておいた。
子津は何も聞かない。正月にアメリカから父兄(まさしくの表現である)が帰国する、とは言ってあったので、律儀な彼のことだ、覚えているだろう。別に猿野とて気まずいわけではなかったが、四人で過ごす正月というのは妙にそわそわして普段の態度が取れなかった。三十日に到着し五日までいるというので一日位大丈夫と自分に言い聞かせて友人の家に行くと言って出てきた。別に嘘をついちゃいない。子津だったのはなんとなくだ。
呉服屋の仕事で正月準備が間に合わなかったんすよ、というのはどの程度の建前だったのか。こたつに頭を乗せて考えてみる。あくびが、出た。
すすはらいなんてフツー正月前にやるだろ、なんてツッコミは、しないのだ。家が商売やっているのに年中行事に疎くてどうする、なんて言わない、のだ。
「ねずっちゅー…」
「なんすか?」
「あついー」
「…こたつから出ればいいと思うんすけど」
呆れ声にくくっと笑った。苦笑の空気が流れたのを感じる。
頭を挙げ、みかんを手に取った。いつもは取らないスジまで丁寧に取る。口に入れると、やたらと甘かった。
そうすると、まあいいか、なんてカンダイな気分になるから不思議だ。
「子津、いーぞ」
子津は黒豆を煮る手を止めた。予備のそれを鍋に突っ込むことくらいしか、彼の理性を保たせてくれる間持たせは残されていなかった。
「何がっすか」
「だって、そんな我慢してるの見せつけられると、申し訳なくもなるっつーの」
子津は鍋を覗き込み冷蔵庫から卵を三つ出してボウルに割った。なんなんだその中途半端な数は、と猿野は思いつつ、振り返った子津をぼんやり見上げた。
耳があったら思いきり伏せているであろう。そのくらいどんよりした空気を背負い、子津は猿野を見下ろす。なんで泣きそうなんだよーと猿野は笑った。
「我慢、してるんすよ」
「知ってる。あ、いや、知ってた?」
「ひどいっす、猿野くん…」
軽くため息を吐いて、猿野の傍らに片膝をついた。
「知らないっすからね」
「おーう。まかせとけ」
何がっすか、と苦笑するねずみの耳元で囁いた。
もうお前の年じゃないから、休めよって。
終
猿野とご家族に配慮して会いたくても会いに行かず年越しも初詣も誘わずひめはじめだって耐えようとしていたけどやっぱむり、なねずっちゅの話。
「やっぱりおこたはいいのお」
「……オコタ?」
「こたつのことだよ。言わねー?」
「言わないっすねえ…」
老成したような声に返す子津の声は上の空だった。視線は昆布巻きに注がれている。
門松を用意し家の至るところに注連縄飾りを掛けて周り神棚を掃除し正月料理の準備をする。高校生男子とはとても思えない所業に猿野は目を丸くしたが、また半眼に戻った。眠かったのだ。
忙しい中に押し掛けても子津は文句ひとつ言わなかった。慣れた手つきで居間へ通すとすばらしいタイミングで茶とみかんを出し、今に隣接する台所へ戻って行った。この間十秒無い。
こたつでぬくぬく温まりながら、美味しい料理が出来上がっていくのを横目で見つつ、うとうとする。これぞ日本の伝統、寝正月。口で言ったらツッコまれるかもしれなかったが、万が一ツッコまれなかったらさびしいのでやめておいた。
子津は何も聞かない。正月にアメリカから父兄(まさしくの表現である)が帰国する、とは言ってあったので、律儀な彼のことだ、覚えているだろう。別に猿野とて気まずいわけではなかったが、四人で過ごす正月というのは妙にそわそわして普段の態度が取れなかった。三十日に到着し五日までいるというので一日位大丈夫と自分に言い聞かせて友人の家に行くと言って出てきた。別に嘘をついちゃいない。子津だったのはなんとなくだ。
呉服屋の仕事で正月準備が間に合わなかったんすよ、というのはどの程度の建前だったのか。こたつに頭を乗せて考えてみる。あくびが、出た。
すすはらいなんてフツー正月前にやるだろ、なんてツッコミは、しないのだ。家が商売やっているのに年中行事に疎くてどうする、なんて言わない、のだ。
「ねずっちゅー…」
「なんすか?」
「あついー」
「…こたつから出ればいいと思うんすけど」
呆れ声にくくっと笑った。苦笑の空気が流れたのを感じる。
頭を挙げ、みかんを手に取った。いつもは取らないスジまで丁寧に取る。口に入れると、やたらと甘かった。
そうすると、まあいいか、なんてカンダイな気分になるから不思議だ。
「子津、いーぞ」
子津は黒豆を煮る手を止めた。予備のそれを鍋に突っ込むことくらいしか、彼の理性を保たせてくれる間持たせは残されていなかった。
「何がっすか」
「だって、そんな我慢してるの見せつけられると、申し訳なくもなるっつーの」
子津は鍋を覗き込み冷蔵庫から卵を三つ出してボウルに割った。なんなんだその中途半端な数は、と猿野は思いつつ、振り返った子津をぼんやり見上げた。
耳があったら思いきり伏せているであろう。そのくらいどんよりした空気を背負い、子津は猿野を見下ろす。なんで泣きそうなんだよーと猿野は笑った。
「我慢、してるんすよ」
「知ってる。あ、いや、知ってた?」
「ひどいっす、猿野くん…」
軽くため息を吐いて、猿野の傍らに片膝をついた。
「知らないっすからね」
「おーう。まかせとけ」
何がっすか、と苦笑するねずみの耳元で囁いた。
もうお前の年じゃないから、休めよって。
終
猿野とご家族に配慮して会いたくても会いに行かず年越しも初詣も誘わずひめはじめだって耐えようとしていたけどやっぱむり、なねずっちゅの話。
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